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札幌地方裁判所 昭和51年(ワ)1482号 判決

原告 佐々木孝秋

同 佐々木淑子

右両名訴訟代理人弁護士 新川晴美

同 菊地克保

被告 広島町

右代表者町長 穴田輝行

右訴訟代理人弁護士 山根喬

右指定代理人 勝沼保昌

同 橋場清彦

主文

一  被告は原告佐々木孝秋に対し金一、一六五万七、八三一円、原告佐々木淑子に対し金一、三八五万七、八三一円と、これらに対する昭和五一年一一月二日から支払済まで年五分の割合による各金員を、それぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告佐々木孝秋と被告間においては、原告佐々木孝秋に生じた費用の四分の一を被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告佐々木淑子と被告間においては原告佐々木淑子に生じた費用の四分の一を被告の負担とし、その余は各自の負担とする。

四  この判決は第一項に限り、原告ら各自において金二〇〇万円の担保を供するときは夫々仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告ら各自に対し夫々金二、四一二万円とこれに対する昭和五一年一一月二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  (本件事故の発生)

(一) 被告は広島町立西部中学校を設置、管理しているものであり、訴外田村行雄は校長として同堀内正美、同信太正、同馳久雄、同小沢順二、同川畑紘三、同善岡隆興、同津田佳代子らは教諭として夫々同校に勤務していたものであり、また原告らの長男亡佐々木毅(当一四才)は同校三年生として同校に就学していたものである。

西部中学校は、その生徒らに対する水泳指導のためその学校行事として、昭和五一年七月二一日、浜益郡浜益村字川下所在の海水浴場において、亡佐々木毅を含む全生徒(九一名)を参加せしめて合宿水泳訓練、いわゆる海浜学校を実施したが、右行事には前記訴外田村校長はその計画に、また前記訴外堀内正美、同信太正、同馳久雄、同小沢順二、同川畑紘三、同善岡隆興、同津田佳代子はその引率、指導に夫々当ったものである。

(二) 亡佐々木毅は右同日午後一時五〇分頃、右海水浴場遊泳区域内において、右水泳訓練を受けているうち、同じくこれに参加していた同級生訴外甲野一郎および同前田広記の両名が同区域内に存した深さ約一・八メートルの深みの個所で溺れ始めたのを発見したので右高橋を救助しようとして同人に近づいたところ、同人からしがみ着かれる等したため自らも溺れるにいたり、程なく救助されて順次同村所在浜益診療所、札幌市所在札幌医科大学附属病院、同市所在中村脳神経外科病院において治療を受けるも同月二八日にいたり、右中村脳神経外科病院において溺水による無酸素脳症により死亡するに至った。

2  (校長および教諭らの過失)

西部中学校の校長および右教諭らには、右海浜学校の計画および実施にあたり次の注意義務があるのにこれを怠った過失があり、これがため本件事故が発生した。

(一) 引率教師は、海水浴場の選定に当っては、事前に、海水浴場管理者から海底の深浅状況および海流の方向性、海底の激変傾向の有無の説明を受けるのみならず、自ら現地の海底の深浅状況につき完全に把握出来る人数、調査範囲および時間をもって事前調査をなし、その結果によりブイ、浮輪等を用い、或いは監視係を配する等して適宜水泳区域を制限すること。

(二) 引率教師は訓練実施に当っては、生徒と共に海水内にあって常時監視し、また陸上監視塔と海上監視船とを用いて常駐監視しかつ通信器具を用いて相互連携し溺水の危険ある生徒発見時には即時に監視船による救助をなしうる態勢をとること。

(三) 引率教師は、事前に生徒に対し、仲間の生徒が溺れているのを発見した場合には、単独救助を行なわないよう厳重に注意を与えておくこと。

(四) 校長は、文部省、道教委通達をすべて引率教師に開示して、右三項の遵守を厳重に指示すること。

3  (損害)

本件事故に基づく亡佐々木毅の死亡により、同人およびその父母である原告らは、次のとおりの損害を被った。

(一) 亡佐々木毅の被った損害 合計金三、四八八万四、七四一円

(1) 逸失利益 金二、九八八万四、七四一円

ただし、昭和五〇年度賃金センサス第一巻第一表短大卒平均賃金三〇三万〇、二〇〇円(年収)に稼働年齢を二〇歳から六七歳としたライプニッツ係数一四・〇八九を乗じ、内三〇パーセントを支出を免れた生計費として控除したもの。

(2) 慰謝料 金五〇〇万円

(二) 原告らの被った損害合計 左記(1)(2)(4)の合計から(3)を控除した額 金一、三三七万円

(1) 葬儀費用 金五〇万円

(2) 慰謝料 金八〇〇万円

(3) 養育費控除 金六〇万円

(ただし、短大卒業までのもの)

(4) 弁護士費用 金五四七万円

原告らは被告と交渉するも、被告が責任回避的言辞に始終したため、原告らはやむをえず本件訴訟事件に関する処理を弁護士である原告訴訟代理人らに依頼し、その際調査費金七万円、着手金一二〇万円を支払い、かつ成功報酬として金四二〇万円の支払いを約した。

4  (相続)

原告らは亡佐々木毅の父母として同人の権利義務を相続した。

5  よって被告は国家賠償法第一条第一項および民法第七一五条第一項本文に基づき原告らに対し夫々右損害計金二、四一二万円およびこれに対する右不法行為の時以後である昭和五一年一一月二日から完済まで民事法定利率年五分の割合の遅延損害金を賠償すべき義務がある。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1の事実のうち、亡佐々木毅が訴外甲野一郎を救助に赴いてしがみ着かれたことは不知、その余の事実は認める。ただし、亡佐々木毅の直接の死因は急性肺炎である。

2  請求原因2の事実はいずれも否認する。

(一) 事前調査について

西部中学校は昭和五〇年度においても海浜学校を実施しその成果を収めたので、昭和五一年度においても引続きこれを行ったものであるが、昭和五一年七月二一日海浜学校を実施するに当っては、前記校長および教諭らは同月一六日に事前調査を行い、その際海底の浅深、海流の方向など調査して、その安全性を確認しており、また右教師らは訓練開始に当り、生徒の遊泳区域につき浜益村および同村観光協会がかねて安全水泳区域として設定し、赤旗による標識を設けた区域内とする旨定めたのである。そして本件海浜学校訓練開始に際しても、前記訴外小沢順二、同馳久雄、同信太正の各教諭および訴外堀内正美計四名が自ら遊泳区域内に入り、海底状況、水温等を調査した結果、遊泳区域と区域外の境い目の水深が約一・三メートルで、水温も良好であったので、水泳の許可を与えたもので、十分な事前調査を尽くした。

(二) 監視救助態勢について

前記引率教諭らは総務、生徒指導、保健衛生指導、キャンプファイヤー指導、庶務渉外、水泳指導の係に分れて配置し、生徒の水泳監視については全職員がこれに当っていた。

そして監視については泳ぐ者担当と泳がない者担当とに分け泳ぐ者担当教諭らは泳いでいる生徒の指導と監視に当り、泳がない者担当教諭らも泳いでいる生徒をも監視する態勢をとっていた。

なお、同海水浴場の陸上に存した監視塔は遊泳区域から遠い場所にあったので教諭をここに配置する意味はなかったものであり、また遊泳区域内でのボートの使用は禁止されていたので、監視船は使用しなかったものである。

また前記教諭らは通信用具として呼笛とワイヤレスアンプを使用していた。

よって、右引率教諭らにおいて、監視救助態勢に遺漏はなかった。

(三) 単独救助の禁止について

前記教諭らは、事前に亡佐々木毅を含む生徒らに対し昭和五一年七月二一日昼食後海水浴場へ向う際及び水泳開始の直前にも海水浴場でまた「生徒が溺れているのを発見した場合は、一人で救助活動に入ることなく、大声で先生に助けを求めるよう」厳重に指示したものである。

(四) 校長の指導・監督責任について

田村校長は右海浜学校指導計画を作成する間に、文部省及び北海道教育委員会の水泳等事故防止に関する通達、通知((1)文部省体育局長通達昭和四〇年六月二六日付文体ス第一八六号「水泳、登山等の野外活動における事故防止について」、(2)同通達昭和四九年六月一七日付文体ス第一六〇号「水泳等の事故防止について」、(3)文部省事務官通達昭和三〇年八月一九日付文初中第三三九号「児童生徒の水泳に関する事故防止について」、(4)北海道教育庁指導部長通知昭和五一年七月五日付五一教保第五〇八三号「水泳等の事故防止について」、(5)同通知昭和五一年七月六日付五一教保第五〇四七号「夏休み中における児童生徒の事故防止について」)の内容を十分に検討し、これを職員に開示しており、出発当日の午前八時には参加生徒及び教職員全員に対し、右通達、通知事項を守るよう事故防止について十分な指導をしたものである。

よって、右田村校長には何らの注意義務違反もない。

3  請求原因3(損害)の事実につき、原告らが本件訴訟を弁護士である原告訴訟代理人に依頼したことは認めるが、その余の事実は争う。

三  被告の原告佐々木孝秋に対する抗弁

原告佐々木孝秋は、昭和五一年一〇月一五日、訴外学校安全会から、本件事故の見舞金二〇〇万円の支払を受けた。

よって、仮に被告らに何らかの責任があるとしても、右金額相当額は原告佐々木孝秋の損失から控除されるべきである。

四  抗弁に対する原告佐々木孝秋の認否

抗弁事実は認める。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  亡佐々木毅(当一四才)は昭和五一年七月二一日午後一時五〇分頃浜益郡浜益村字川下所在川下海水浴場遊泳区域内において、訴外堀内ら前記引率教師らから水泳訓練を受けていた際、溺水し、程なく救助されて順次同村所在浜益診療所、札幌市所在札幌医科大学附属病院、同市所在中村脳神経外科病院において治療を受けたが、溺水による無酸素脳症となり、同月二八日にいたり右中村脳神経外科病院において死亡するに至ったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば亡佐々木毅は右無酸素脳症から急性肺炎を惹起しこれが直接の死因となったものであることが認められる。

三  《証拠省略》によれば、前記訴外田村校長は昭和五一年七月八日頃同校における教科外指導として前記海浜学校指導を計画したものであること、そして訴外田村校長らはその海水浴場の選定に当っては、前年度も実施した前記浜益村字川下所在川下海水浴場を先づ想定し、なお前記訴外堀内教頭及び同信太教諭をして同月一六日右海水浴場につき水深及び海底の状況につき事前調査せしめたうえ、これを同所において実施する旨決定したものであること、右海水浴場は訴外浜益村及び同浜益村観光協会において「川下海水浴場」として昭和五一年度は同年七月一二日開設し一般の利用に供した施設であってその遊泳区域は汀線(南北方向)約三五〇メートル及びこれより沖合約三〇メートルの位置にあるほぼこれに平行な線とにより囲まれた矩形状の区域内であり、右沖合の線上には約二〇メートルないし三〇メートル置きに沖合の線であることを示す赤旗の標識が夫々設けられてあり、右沖合の線付近の水深はほぼ一・三メートルないし一・五メートルであったこと、そして前記訴外堀内、同信太、同馳、同小沢、同川畑、同善岡、同津田各教諭らは教育実習生訴外柏木聰及び同宮越恒夫と共に西部中学校生徒計九一名を引率して同年七月二一日午前八時頃西部中学校からバスで出発し、午前一一時一〇分頃浜益村字川下所在の宿泊予定地に到着し、同所で昼食、休憩をとった後、午後〇時五〇分頃同所から徒歩約六分の距離にある前記川下海水浴場に到ったこと、右引率教師らは、そこで右海水浴場の遊泳区域のうち、ほぼ中央部にある汀線約五〇メートルにわたる部分から沖合約三〇メートルにいたる迄の間の水域を同校水泳区域と定め指示し、第一回目水泳指導として午後一時一〇分頃右生徒らを各自、自由に前記水泳区域内で遊泳させたうえ同一時二五分頃合図により右生徒らを海浜上に戻らせ休憩させたこと、次いで右引率教師らは第二回目水泳指導として同一時四〇分頃再び右生徒らを右水泳区域内で同様遊泳させたこと、ところで、右水泳区域内の汀線から沖合方向へ約二〇メートル離れた地点付近に直径約一〇メートルの範囲で水深約一・七メートルの窪地状の海底の部分が在ったのであるが、生徒訴外前田広記(三年生)は同午後一時五〇分頃遊泳中右深みに差しかかるや溺れかかり、付近を遊泳していた亡佐々木毅及び訴外宮越実習生に向い助けを求めたが、やがて自力で右深みを脱することができ直ちに海浜方向に向ったこと、また生徒訴外甲野一郎(三年生)も同時刻頃遊泳中右深みに差しかかった際同様に溺れかかり周囲に助けを求めたこと、亡佐々木毅はその頃訴外甲野の泳いでいた方向に向い泳ぎ寄って来たこと、訴外前田はその頃訴外甲野の右状況を発見し、前記の如く海浜方向に向う途中付近に居た宮越実習生にそのことを告げ、次いで途中更に出会った訴外柏木実習生次いで訴外馳教諭にも夫々その旨を知らせたこと、他方宮越実習生は直ちに訴外甲野の傍に急行したうえ同人を仰向けにさせ更に周辺に向い援助を求めているうち前記訴外柏木実習生の外二名(何れも引率教師以外の氏名不詳の者)がボートを伴って来たのでこれと協力して訴外甲野を右ボートに救い上げ、直ちに海浜方向に向おうとしたこと、ところが、その頃生徒訴外河上聖典、同清水政徳及び同蔵谷建二(以上、三年生)も右応援のため右深み付近に来たが、この時初めて亡佐々木毅が右深み付近において溺れてうつ伏せ状になっているのを発見したので同人らは亡佐々木毅を右ボートに救い上げたこと、そして訴外柏木実習生らは直ちに右ボート上で亡佐々木毅に対し人工呼吸を施しながら右ボートを海浜方向に向わせ、次いで海浜において訴外馳教諭らが亡佐々木毅に対し更に人工呼吸及びマッサージを、訴外甲野一郎に対しマッサージを施したこと、やがて訴外甲野は意識を回復したものの亡佐々木毅は意識を失ったままの状態にあったので訴外馳らは亡佐々木毅を救急車で前記浜益診療所に送り、亡佐々木毅は同所で医師から手当を受け、次いで前記札幌医科大学附属病院及び中村脳神経外科病院において順次治療を受けるに至ったものであることが認められる。

以上認定事実によれば、亡佐々木毅は前記昭和五一年七月二一日午後一時五〇分頃前記海水浴場内の水泳区域において遊泳中訴外前田及び同甲野が前記深みにおいて溺れようとしているのを発見し、これを救助すべく右深みに近寄った際その深みのため自らも溺れるに至ったものと認めるのが相当と考えられる。

《証拠省略》によれば、亡佐々木毅は過去三年間毎年二ないし四回程海水浴に行っていて、背の立たない所を平気で泳げる程度の水泳能力を有し、水泳には自信を持っていたことが認められるが、水泳能力を有する者であっても予見しなかった深みに至った場合狼狽して溺れることも往々あることであるから、右事実を以ては前示認定を覆えすことはできない。

原告らにおいて、亡佐々木毅は前記の如く訴外甲野が溺れかかったのを発見したので、同人を救助しようとして同人に近づいたところ同人からしがみ着かれたものである旨主張するが、《証拠省略》によっては未だ亡佐々木毅が訴外甲野から原告ら主張の如くしがみ着かれたとの事実まで認定することはできず、本件に顕れた他の全証拠によるも未だこの点を認めることはできない。

四  中学校教師において学校行事として生徒らに対し海水区域を使用して一般的水泳指導を実施するに際しては、事前に使用水域の深浅、海底の起伏等の状況につき充分な調査を遂げ、そのうちに生徒の身長以上の深みのある場所が存在するときはその使用を止めるか、又はその深みの区域を明らかに限ってこれに立入ることを禁止する措置を講ずるべき注意義務があり、また生徒ら全体を監視掌握し得る教師の数を配置し、かつ予め生徒ら全体に目を届かせ生徒らが溺れかかる等危険の生じる時にも直ちに救助し得る態勢を措るべき注意義務があるものというべきである。

しかるところ、《証拠省略》によれば、前記引率教師らは前記第一回目水泳指導開始に先立って訴外堀内、同小沢、同馳、同信太各教諭をして夫々前記水泳区域にわたり約一〇メートル間隔に並び汀線付近から沖合方向に向い歩行しながらその深さの程度及び海底の状況を調査せしめたに止ったため、前記深みの部分の存することを発見し得ないまま、右水泳区域には生徒らの身長を越えるような深みの部分はないものと軽信し、以後前記水泳区域を右水泳指導に使用したものであることが認められる。

また《証拠省略》によれば、前記引率教師らは前記第二回目水泳指導に際し、生徒らのうち約七一名を前記水泳区域内に入らせ遊泳させたのであるが、これを監視掌握する態勢としては右引率教師らのうち訴外堀内、同馳、同小沢、同善岡各教諭及び訴外宮越同柏木各実習生が夫々右水泳区域内に入り各自随意の位置で監視掌握に当り、その他の教師らは海浜上に在って同様に生徒らのうち海水中に入らないで海浜上に居残った者らの監視に当ったこと、しかし亡佐々木毅が前記の如く溺水するまでの状況については前記生徒訴外河上らにおいてこれを発見するまで右教師らにおいては監視掌握していなかったことが認められる。

そうして見ると、右引率教師らにおいて前記水泳指導に際し使用水域の深浅及び海底の起伏の状況につき充分な調査をなすべき注意義務を尽さず、また少くとも亡佐々木毅に対しその監視掌握すべき義務を欠いたものであり、そのため亡佐々木毅は前記のとおり溺水し、かつその救助の時機を失したものといわなければならない。

しからば被告は亡佐々木毅の死亡により同人及びその父母たる原告らが蒙った損害を賠償すべき義務がある。

五  損害について

1(一)  亡佐々木毅の逸失利益 金一、九五二万九、二七〇円

《証拠省略》によれば、亡佐々木毅は本件事故当時一四才七月の男子であり、その学業は普通であり、原告佐々木孝秋は亡毅を将来進学せしめる希望を有していたことが認められるから、少くとも短大卒程度の学歴を得て就職するであろうということができ、しからばその逸失利益現価は次のとおり金一、九五二万九、二七〇円であると考えられる。

3,050,400円×1/2×(17.8800-5.0756)=19,529,270円

ただし、平均余命五九・三四年(昭和五一年簡易生命表)、平均年収金三〇五万〇、四〇〇円(昭和五一年度労働省賃金構造基本統計調査報告書第一表高専・短大卒欄、きまって支給する現金給与額(月)金一九万〇、四〇〇円、年間賞与その他特別給与額金七六万五、六〇〇円)、就労可能年数四〇年(二〇才から六〇才まで)、生活費収入の五〇%、中間利息控除ライプニッツ方式

(二)  亡佐々木毅の慰藉料 金三〇〇万円

前示本件事故の諸事情に照らし亡佐々木毅の慰藉料は金三〇〇万円が相当と認められる。

(三)  原告らの各慰藉料 各金一五〇万円

前示本件事故の諸事情に照らし亡佐々木毅の父母である原告らの慰藉料は各金一五〇万円が相当と認められる。

(四)  原告らの出捐した葬式費用 各金二五万円

《証拠省略》によれば原告らは亡佐々木毅の葬式費用として各金二五万円を支出し同額の損害を蒙ったことが認められる。

(五)  亡佐々木毅の二〇才までの養育費

原告らにつき各金四五万六、八〇四円

7,500円×12月×5.0756=456,804円

原告らは亡佐々木毅につきその二〇才までの養育費を免れたからこれを原告らの蒙った損害額から控除するのが相当と考えられるところ、右養育費は原告らにつき各一か月金七、五〇〇円を相当とする。

ただし、中間利息控除ライプニッツ方式にする。

(六)  原告らの弁護士費用

原告佐々木孝秋につき 金一一〇万円

原告佐々木淑子につき 金一三〇万円

《証拠省略》によれば原告らは本件訴訟事件に関する処理を本件訴訟代理人らに依頼し、その際調査費計金七万円、着手金計金一二〇万円を支払い、更に報酬計金四二〇万円の支払を約したことが認められるが、本件訴訟の難易度、請求認容額等に照らし相当因果関係を有するものとして賠償を求め得るのは、うち原告佐々木孝秋につき金一一〇万円、原告佐々木淑子につき金一三〇万円が相当と考えられる。

(七)  相続

《証拠省略》によれば、原告らは亡佐々木毅の父母として同人の前記(一)及び(二)の賠償債権を各二分の一宛(計各金一、一二六万四、六三五円)相続取得したことが認められる。

(八)  損益相殺

原告佐々木孝秋につき 金二〇〇万円

原告佐々木孝秋が昭和五一年一〇月一五日訴外学校安全会から本件事故見舞金として金二〇〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

2  右1の(一)ないし(八)を綜合すれば、原告佐々木淑子においては計金一、三八五万七、八三一円、原告佐々木孝秋においては計金一、一六五万七、八三一円の損害賠償債権を取得したものということができる。

六  以上の次第であるから被告に対し、原告佐々木孝秋においては金一、一六五万七、八三一円、同淑子においては金一、三八五万七、八三一円とそれぞれ履行期の後である昭和五一年一一月二日から支払済まで民法所定年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれその請求は理由があるからこれらを認容し、その余の各請求は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条一項を、仮執行宣言につき同法第一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 磯部喬 裁判官 田中由子 裁判官千徳輝夫は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 磯部喬)

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